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身近な暮しを書きとめるノートです。
by lykkelig
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『髭のノラ』出版記念スピーチ

『ノルウェーを変えた髭のノラ』こぼれ話 (2010年4月27日 ノルウェー王国大使館にて)

Minister Counsellor, Mr. Tor DAHLSTRØM、
Counsellor, Ms.Wenche PREBENSEN
First Secretary, Ms. Dorthe BAKKE, 
Ms. Ami Semba,  and ladies and gentlemen. Velkommen!

アイスランドの火山噴火が起きたとき、私はヨーロッパに出張していました。帰国便は、早くて26日(昨日)着だと言われました。今日の集いをキャンセルしなくては、と覚悟した矢先、「飛びそうだ」という知らせが舞い込みました。半信半疑でミュンヘン空港に到着したら、本当に飛びました。機内で、「空港再開後の第一便です」とアナウンスが流れ、こうして幸運にも皆様とお目にかかることができました。

この噴火時、世界の首脳は核セキュリティ・サミットでアメリカにいたようです。ドイツのメルケル首相は、いったんスペインに降り、そこから陸路に変えて3日間、自動車で流浪の旅をしている映像が流れました。ところがノルウェーのストルテンベルグ首相はといいますと、膝の上のアイポッドで、ニューヨークのホテルのロビーからオスロの政府と通信をし、悠然と遠隔指示をしている映像が流れました。

実際は大変だったのでしょうが、ストルテンベルグ首相の映像には心が和み、ホッとさせられました。

この彼の仕事の仕方は、現代のノルウェー人の働きかたを象徴しているように思います。

まずインターネットという最新ツールを使いこなして仕事をする点。それに、ロビーしかなかったら、ロビーで仕事にとりかかるという柔軟性。さらにこの国では、首相であろうと誰であろうと何かあった際は、分担・代行できる体制がつくられているという点です。とくに、この最後の点は、重要です。

ノルウェーは、大臣や会社の取締役であっても、就任中になんの抵抗もなく妊娠・出産する国です。そうした女性と職場をつなぐツールはインターネットです。

私の知人で財務官僚の女性は育児休業中でしたが、重要な情報はインターネットで入手し、インターネットで会議に参加もするのだ、と言っていました。そして、公務員の彼女ばかりか、私企業に勤める夫まで、フレックスタイムで働けるのです。在宅勤務をしてもいいのです。また、ポストを代行・代理する制度があるため、首相や大臣であっても、また国会議員でも、市長でも、こころおきなく休めます。首相が副首相に、または大臣が副大臣に職務を代わってもらった話を、何度か耳にしました。

こうしたノルウェーの柔軟な労働環境は、女性が働き続けるために、非常に重要です。ノルウェーの女性は、3才以下の子どもを持っていても、その就労率は75%。出産後に女性の7割が退職する日本とはちょうど逆です。

こうした環境があるからこそ、ストルテンベルグ首相のゆとりのアイポッド光景になったのではないでしょうか。つまり女性に優しい環境は、男性にとっても優しい環境だといえます。

こうした職場環境を作りあげたノルウェー社会に、私が魅せられてから、20数年が経ちました。





その間、クオータ制や、男女平等オンブッド、パパ・クオータを、日本に紹介するなど、ノルウェーの男女平等に関する著作を書いてきました。

クオータを日本人に知ってもらうまでは苦労しました。メディアにも、「クオーターではなくクオータです」と訂正の電話を何度したことでしょうか。ところが、つい先ごろ、日本政府から発表された「第3次男女共同参画基本計画の中間整理」に、「クオータ」という表現が記載されているのを見つけました。おそらく、日本政府の公式文書に初めて記載されたものだと思います。ただし、これは検討項目に過ぎず、実現にはまだ遠いのですが、全国フェミニスト議員連盟の仲間たちと20年間言い続けてきた効果がちょっと現れた、と言えるのかもしれません。

私は、クオータこそ、平等社会へのエンジンだと思っております。今回の本でも、第1章を、クオータ制(性による割り当て制)についてあてています。

ノルウェーのクオータの歴史をたどりますと、4つのステージに分けられるように思います。

第1ステージは、政党内に限定された、いわば自主的クオータです。1970年代にはじまりました。
社会心理学者ベリット・オースが、社会民主党党首だった1973年、党内の全ての決定の場をすべて男女半々とするというクオータ制を実行したのが、最初だと思います。

第2ステージは、男女平等法21条にうたわれたクオータで、1980年代です。公的決定機関は、男女それぞれが40%を下回ってはならないという法律です

第3ステージは、父親の育児参加をすすめるためのクオータで、私はこれを「パパ・クオータ」と名付けました。1990年代です。育児休業の4週間はパパがとらないと無効になってしまうというものです。現在では、これが10週間に伸びています。

そして、いよいよ2000年になり、第4ステージにはいります。これが、現在、世界中がモデルと仰ぐ経済界の男女平等政策である、「取締役クオータ」です。上場会社の取締役会議は、男女どちらも40%を下回ってはならないという法律です。

こうしてみると1970年代から、何十年もの段階を経て、やっと経済界のクオータに到達したことがわかります。しかし、時間をかければできるのかというとそうではありません。歴史の歯車を動かす人がいなくては前には進みません。

取締役クオータの仕掛け人は、日本だったら自民党に該当するようなノルウェー保守党に属する男性大臣でした。名前はガブリエルセンです。彼の所属する保守党はクオータに反対していましたので、まさに彼のクーデターでした。ノルウェーでは、ガブリエルセンの突発的な思いつき発言のように言われておりましたが、実際に彼に取材したら、用意周到に準備されたクーデターだとわかりました。保守党の男性大臣が女性の味方として登場するところが、ノルウェー的です。この用意されたクーデターは、エッヘン、と威張りたくなるような、私の特ダネです。この点は、152ページをお読みください。

今回の本は、取締役クオータの記事と、2009年の国政選挙ルポのほか、とくに女性たちがどのように新しい道を切り開いてきたかに焦点をあててみました。

ノルウェー語が達者でないと、ノルウェーの歴史の本は読めませんので、主として英語による文献と取材を通して調査しました。それでも、多少はノルウェー語の文献を読まなくてはなりませんでした。なんとか辞書を引きながら解読することができました。ノルウェー語のほとんどできない私がなぜできたか考えてみますと、ノルウェーの歴史上の女性の問題は、日本がかかえている問題とほぼ同じだったため、だいたい想像がつくことが多かったからです。

それに、本には書きませんでしたが、昨年の夏、初級ノルウェー語の短期講習を受けました。世界の若者に交じってのハードな授業で、若い頃は試験に強い生徒だった私なのですが、あやうく落第するところでした。

さて、ノルウェーの歴史に話を戻します。
1970年代のノルウェーの事ですが、妊娠した中学教員の話は、身につまされました。その女性は、保育園がほとんどなかった上、職場では妊娠や出産のことを自由に言える雰囲気ではなかったと書いています。「腹部にポケットのついたダブダブの洋服を着て、ぎりぎりまでごまかして働き続けた」というのです。
また、60年代から70年代にかけての妊娠中絶の自己決定権を求める運動で、反対派の意見は恐ろしいものでした。
「中絶は殺人だ、望まない妊娠は酒を飲んだときのついうっかりから起きてしまうもの。今以上の避妊教育は不要だ」というものでした。

それよりさらに遡って、1930年ごろは、妊娠中絶をせざるをえない女性に対して、「神が与えたもうた尊い命を抹殺する殺人鬼の母親」とごうごうたる非難があがりました。

もっと時代を遡ると、女性参政権案を審議した、1890年の国会の憲法委員会で、女性の参政権に反対する議員のこんな発言があります。

「公的な場で行動する女性は売春婦と同じだ」
「男女両性はそれぞれ役割を持っており、男女が平等になると不幸になる」
「女性が投票するようになると、家庭崩壊を招く」

女性蔑視の歴史は、ノルウェーでも日本と同じだったんだなぁ、とあらためて深い感慨を覚えました。そして、その抑圧の歴史の扉を、ひとつひとつ開いていった女性たちの歩みをたどることは、とても胸躍る楽しい作業でした。

時空を越えて、「私たちはこうして闘ったんですよ。さあ、マリ子、あなたも頑張りなさい」と、私の肩をポンと叩いてくれるようでした。

そして、今回の最大の発見の一つは、フェミニストの女性たちを背後で励ましてきた数少ない男性たちの存在です。その1人が19世紀の文豪イプセンです。『人形の家』などの作品を世に出しただけではありませんでした。男女平等のために実際に行動もしていたのです。一例として、男女平等に生涯を捧げた作家カミラ・コレットに出した手紙を紹介します。

「あなたが提起してきたヴィジョンは、文学の世界だけで終わるものではありません。現実の世界が、かならずや、あなたのヴィジョンをつかみとることでしょう。しかも、その時は、もうすぐです。もうじき、やってきます。僕は、心の底から、そう信じています。僕が、あなたの考えに完全に賛同していることをご理解ください。この共感は、いかなることがあってもゆるぐことはありません」

さて、残りの時間で、本では小さなサイズでしか紹介できなかった写真をお楽しみいただこうと思います。
by lykkelig | 2010-05-29 01:14 | 本、文書
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