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身近な暮しを書きとめるノートです。
by lykkelig
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アムンセンとスコット 続き

イギリスのスコットは、典型的なイギリス海軍士官だった。幼少のころの夢は「イギリス海軍提督」なること。

当時、世界で、局地探検に最も成果をあげてきたのがイギリスだった。多くは海軍の軍艦を使っていた。王立地理学協会(1830年創立)の会長が、人類最後の空白地帯としての南極をイギリスの力で制覇したいと考えていた。そんな時代、会長は、若い海軍指揮官スコットに眼をつけ、南極探検隊の隊長になってほしいと要請する。イギリスという国を背負っての大役を、スコットは引きうける。

「極地をめざす」ため幼少のころから強い意志を持って、自己鍛練を続けてきたノルウェーのアムンセン。一方、偉い高官からの依頼に応えたイギリスのスコット。本多さんは、二人のモチベーションの違いを、くっきりと示す。

1901年、初の南極探検隊は、スコット隊長のもと、93日間の往復1941キロを踏破。南緯82度16分33秒に到達して、帰還する。この探検中、犬が病気になり全滅してしまう。これが強烈な体験となり、1910年にロンドンを出航した本番の南極探検では犬ではなく馬を主力とすることになる。

「犬を主力としたアムンセン隊との大差を生ずる遠因にもつうじてゆく」と、本多さんは書く。

次に「デポ作戦」。スコット隊のデポ作戦は、南緯80度まで達してなかった。これが命とりにつながってゆく。一方、アムンセン隊は、南緯80度に第1のデポをつくり、81度に第2デポ、82度に第3デポ・・・85度に第6デポをつくった。

そして、両隊には、極寒の地での実力の違いがある。なにしろ「ノルウェー人はスキーをはいて生れてくる」ということわざがある国民だ。誰もがスキーが大得意。一方、イギリス人は、南極で初めてスキーを習った人もいた。

さらに、24時間真っ暗闇という日々のすごし方。アムンセン隊では、朝に外に出た隊員たちが、外の気温を何度かあてるクイズ、できのいいサングラスをつくるコンテスト、など、人間の主体性や遊びを取り入れている。なんとなく、このユーモア精神は、ノルウェーの友人を思い出す。

対するスコットはどうだったか。誠実さ、責任感の強さ、困難に立ち向かう勇気は人並みはずれていたが、こうしたユーモアが持ち合わせてなかったという。

そして、本多さんは、南極点隊にスコットが選んだ5人ついて書く。特に、最も屈強にも関わらず最初に死んだエバンズについての人物描写には、うなってしまった。

「エバンズは、5人のなかでただ1人の兵卒である。階級制度のはげしいイギリス社会では、他隊員とは一段違った位置におかれたことを意味する」と書く。

そのエバンズは、5人のうち最初に亡くなる。そこで、また、こう書く。
「エバンズは自分の立場をよく心得ていた。隊のなかでただ1人の兵卒である。特に軍隊の場合、あらゆる場合に不平をいえない立場にある。これはイギリス的階級社会ではことさら増幅される。・・・事実エバンズは、凍傷によるひどい痛みにじっと耐え、なにひとつ弱音をはかなかった。『大丈夫です』としか自分の容態については言っていないほどだ。立派で、雄々しい態度だった」

エバンズに次いで、オーツというみなと同じ階級に属している隊員の死がやって来る。彼の死は、のち、もっとも崇高な死として時代に迎えられたのだという。そう書いたあとで、本多さんは、さらにエバンズについて書くことをやめない。

「2人の死のまえ数日間の一行の行程を調べてみると、エバンズの死の前の数日間の行程は、それまでの行程とほとんど変化がないことがわかる。それは、エバンズが苦痛にもかかわらず、また心理的重圧を他の4人が感じてたにもかかわらず、実質的には隊そのものの足を引っ張ってなかったことを意味しよう。かれは実によくやったのだ」

「エバンズの自己犠牲の精神はオーツのそれにまさることがあっても、けっして劣らないということである。かれは、全力をふりしぼって隊の行程を遅らすまいと努力したうえに、差別された不平ももらず死んでいった」

本多さんは、かなり怒っている。イギリスでオーツの死が高く称賛されている一方で、エバンズの死が語られること少ないこと、エバンズの英雄的行為が、階級世界ゆえに矮小化されていることに。

手に汗握る冒険物語だった。しかし、本多さんの手になると、そこにとどまらない。その背後に横たわる社会の深刻な問題を読者につきつける。
by lykkelig | 2009-10-31 19:00 | 本、文書
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