50%プラス


身近な暮しを書きとめるノートです。
by lykkelig
プロフィールを見る
画像一覧
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

バザーリア賞授賞記念スピーチ(日本語)

大熊一夫によるバザリア(バザーリアとも言う)学術賞受賞記念セミナー講演録です。2008年6月24日、大熊は、イタリア・ヴェネツィアにおいてイタリア語でスピーチを行いました。

ノーベル賞受賞スピーチなら、世界中のメディアが報道するのですが、バザーリア賞はそうはいきません。日本のマスコミも、とりあげてくれませんでした。というわけで、栄えあるバザーリア賞第1号の受賞スピーチの元原の日本語原稿を紹介します。

日本語スピーチ原稿は全文ではありませんので、全文を読みたいかたはイタリア語のほうをどうぞ。

■■イタリア・日本…… 民主主義国家における精神医療施設の夢と悪夢■■

私自身の体験から、お話します。

朝日新聞社の記者だった私は、1970年2月3日朝、ひどく酔った状態で、かつての妻と、会社の同僚に両脇を抱えられて、東京の私立精神病院の門をくぐりました。

その病院は、酩酊状態の人物を家族が連れていって「この人は酒癖が悪い」と訴えると入院させる、と噂されていました。単に酔っているという理由だけで、牢屋のような病棟に閉じとめる。これは、日本のような立憲民主主義国家にはあってはならないことです。本当に、そんな嘘のようなことが起こりうるのか。

好奇心に満ちあふれた32歳の社会部記者だった私は、自分で試してみることにしました。そうしたら、本当にあっけなく閉鎖病棟に入れられてしまったのです。




その私立病院は、専門家の間では中級レベルといわれていました。当時の日本の精神病院では、職員が患者を殴り殺したリ、患者が患者を殺したり、暴力団が病院の理事会を乗っ取ったり、患者の強制労働で病院の運動場や院長の邸宅の庭をつくらせたり、といったスキャンダラスな出来事が多発していました。

私の入った病院は、殺人の起きるような暴力はありませんでしたが、しかし、私を驚かせる風景は、たくさんありました。

閉鎖病棟のなかには動物園の檻のような部屋が3つあって、そこに痴呆性老人が数人ずつ閉じ込められていました。みな失禁状態でオムツを付けていました。すごい臭いが漂っていました。

私の入れられた部屋は80平方メートルほどの畳部屋で、同室の住民は30人ほどでした。私たちは、その部屋の中で、自分で布団を敷いて雑魚寝をし、そこに机を並べて食事をしました。あんなまずい食事は、生まれて初めてでした。

病棟の廊下の隅にトイレがあるのですが、そのトイレには扉がありませんでした。私がしゃがんで用を足す姿は、皆から丸見えです。精神病棟では、恥ずかしがる自由もなかったのです。

「退院したい」とさわぐ患者は、懲罰として個室にぶち込まれて電気ショックをうけました。職員が患者を殴る場面は見ませんでしたが、麻薬患者がおとなしい患者を殴る光景は、しばしば目にしました。

私は、「アルコール依存症で精神病質(Psicopatia)」という診断をもらいました。結局、ここに2週間入院したのち、家族が退院を申し出ました。すると主治医は、「アルコール依存症は治っていないから、退院させない方がいい」と言いました。

入院患者は、精神病院にとって利潤を生み続ける「固定資産」だったのです。断わっておきますが、私はアルコール依存症になれるほどには酒を飲めません。断じてアルコール依存症ではありませんので、入院の必要は全くありませんでした。

家族は「入院させるカネが続かないので退院させたい」と言い張って、やっと私を救出することができました。私は、身分を隠すために新聞社の健康保険は使わず、入院費まるまるを現金で支払っての入院だったのです。

この入院体験で、いろいろなことがわかりました。

私は、それまで、精神病院の中がどうなっているのか、全く知りませんでした。ただ、「奇妙で、怖い人々」が集められるところ、と、漠然と考えていました。しかし、入ってみて、わかりました。

(中略)

私は、以上の体験を「ルポ精神病棟」という題名で新聞に連載し、その後、本にしました。こんな動物扱いは絶対に許すものか、との強い怒りを文章に込めました。

しかし困ったことに、私には、根本的な解決策を書くことができませんでした。1970年のころの日本には、フランコ・バザリアみたいな精神科医はいなかったのです。もっとも、今だっていませんが。

私が書けることといったら、「自由な雰囲気の病棟」「居心地のいい病棟」を心がける「良心的」といわれる数少ない病院を、文章でたたえることくらいでした。

1985年、180号法施行から7年も遅れて、「イタリアが精神病院を廃止する法律をつくった」、という情報が日本に届きました。大ニュースでした。興奮しました。しかし、何百年も「必要悪」といわれ続けてきた精神病院を、イタリアはどうして廃絶できるのか。いくら想像しても、わかりません。

これは自分の目で確かめるしかないと思った私は、友人の精神科医を誘って、トリエステを訪ねました。1986年2月のことでした。そして、精神病院を使わないシステムが可能なこと、つまり、重い精神的疾患の人々を支える地域精神保健サービス網というものがありうることを、初めて実感できたのです。

ああ、これで「ルポ精神病棟」の解決策が見つかったぞ! と驚喜しました。でも、不安はありました。こんな大それた改革が国単位で進むはずがない、と思いました。当時のイタリアで実感できた反改革の波につぶされて、元の木阿弥になるのでは思ったのです。

しかし、近年、調査を進めてみると、事態が大きく進展していることがわかりました。180号法ができて30年たったいまでは、日本人の私にも、本物の改革が根付いたことがわかります。こうして、一昨年から取材を始め、その途上で、バザリア学術賞に応募して、幸運にも、授賞の栄にあずかったのです。

さて、最後に今の日本の精神保健について話します。
1970年の私の精神病院入院体験から38年がたちました。日本の精神病院も、見かけはきれいになりました。昔と違って暖房設備もあります。30~40人を収容していた大部屋も、ほぼなくなりました。暴力沙汰の報道も減りました。「良心的医師」「良心的精神病院」が増えたのは確かです。

しかし、精神病院のベッドは1970年のころより10万床もふえてしまいました。今、人口1億2千万の国で34万床です。このうち精神分裂病が約19万人、ほかに痴呆老人やアルコール依存症患者も入っています。

過去20~30年、先進国のあらゆる国で精神病院のベッドは急激に減少したというのに、日本だけが急激に増大し、そのまま横ばい状態が続いているのです。

(中略)

どうしたらこの悪夢を終わらせることができるのか?

近年、欧州の実態を見学する機会がありましたが、そこでも民間の精神病院が幅をきかせるような動きがあることに、気づかされます。イタリアでも、「私立」を中心に据えようと主張する人を見聞きします。

私の日本の実状についての証言が、このような逆行の流れを止めることに役立つことを願います。

さて、この日本の、私立精神病院中心主義という要塞を、どうやったら突き崩せるか。

公的な責任を土台にしたイタリア精神保健改革の成功例は、私たちを勇気付けてくれます。
バザリアが火をつけたイタリアの精神保健改革に関する本を、日本において日本語で出版するのは、私立精神病院への戦いのための、強力な武器になるでしょう。

多くの日本人の心にインパクトを与えられるような本を作って、イタリアの皆さんの期待にこたえたいと思います。ご静聴、ありがとうございました。
[PR]
by lykkelig | 2008-06-29 10:05 | 社会問題
カテゴリ
以前の記事
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 10月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 08月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月
2005年 01月
2004年 10月
2004年 07月
2004年 06月
2004年 01月
2003年 11月
2003年 09月
2003年 07月
2003年 05月
2003年 01月
2002年 10月
2002年 01月
2001年 08月
2001年 07月
2001年 04月
2001年 03月
2001年 01月
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧